「クラウド」という言葉は毎日聞くのに、「じゃあクラウドって何?」と聞かれると、「インターネットのどこかにあるサーバー」くらいしか言えない。サーバーとの違い、レンタルサーバーとの違い、AWS と Google Cloud の関係。言葉の位置づけが曖昧なまま AWS の勉強を始めると、サービス名の暗記になって続きません。この記事は、読む順番の一番最初に置いた1本です。
この記事の結論
- クラウドとは、サーバー・ストレージ・ネットワークといったコンピュータの資源を、自分で買わずに、ネットワーク越しに必要な分だけ借りて使う形です。
- オンプレミスとの違いは「買う」か「借りる」か。買うと容量を先に決めなければならず、借りると使った分だけ払って増減できます。
- IaaS・PaaS・SaaS は「どこまで借りるか」の区分です。下に行くほど自由で自分の仕事が多く、上に行くほど楽で自由が少ない。
- クラウドで要らなくなるのは「機械を買って置く」部分だけで、設計と運用は残ります。だからネットワークと Linux の土台が要ります。
- AWS はクラウドの事業者の1つです。「クラウド=AWS」ではなく、「クラウドという借り方を提供する会社の1つが AWS」です。
クラウドとは「コンピュータを借りる形」のこと
クラウドコンピューティングの定義として一番よく引かれるのは、米国の標準技術研究所(NIST)が 2011 年に出した文書 SP 800-145 です。そこでは、クラウドを「設定可能なコンピュータ資源(ネットワーク・サーバー・ストレージ・アプリケーション・サービス)の共有プールに、どこからでもネットワーク越しに、必要に応じて、最小限の手間で利用と解放ができる形」と定義しています。
長い定義ですが、言っていることは1つです。コンピュータの資源を「持つ」のではなく「借りる」。しかも必要なときに必要な分だけ、すぐに。
「サーバー」という言葉は、役割の名前です。Web サイトを返す役割のコンピュータが Web サーバー、データを保管して返す役割のコンピュータがデータベースサーバー。この「サーバーという役割を担うコンピュータ」を、自分で買って自分の建物に置く形がオンプレミス、事業者の建物にあるものをネットワーク越しに借りる形がクラウドです。
NIST は、クラウドの特徴として5つを挙げています。
| 特徴 | 意味 | オンプレミスとの違い |
|---|---|---|
| オンデマンド・セルフサービス | 人に頼まず、自分の操作で資源を確保できる | 購買部門への申請と納品待ちが要らない |
| 幅広いネットワークアクセス | ネットワーク越しにどこからでも使える | 建物の中の端末からしか触れない、がない |
| リソースの共有 | 事業者の大きな設備を多くの利用者で分け合う | 1社で設備を抱えない |
| 迅速な伸縮性 | 使う量を短時間で増やしたり減らしたりできる | 買った機械の容量が上限 |
| 計測されたサービス | 使った量が測られ、それに応じて払う | 買ったら使わなくても費用は同じ |
この5つが揃っているのがクラウドで、揃っていなければ「借りている」だけでクラウドとは呼びません。たとえばレンタルサーバーは「借りる」形ですが、迅速な伸縮性(今日の午後だけ10台に増やす)はありません。
オンプレミスとの違いは「買う」か「借りる」か
BUY OR RENT買うか、借りるか
オンプレミスとクラウドの違いは「買う」か「借りる」か
オンプレミス
機械を買って、自分の建物に置く
- 容量を先に決める多ければ遊び、少なければ足りない
- 納品・設置・保守を自分で壊れたら自分で交換
- 使わなくても費用は同じ買った時点で確定
クラウド
事業者の設備を、ネットワーク越しに借りる
- 使った分だけ払う止めれば止めた分は減る
- 数分で増やし、減らせる繁忙期だけ台数を増やす
- 機械の保守は事業者OS から上は自分の仕事のまま
オンプレミスでは、サーバーを買う前に「どれくらいの性能が要るか」を決めなければなりません。多めに買えば普段は遊びますし、少なめに買えば繁忙期に足りません。しかも納品まで数週間、設置と配線と OS の準備で数日。壊れたら自分で交換します。
クラウドでは、この「先に決める」がなくなります。小さく始めて、足りなければ数分で大きくする。繁忙期だけ台数を増やし、終わったら減らす。機械の故障は事業者側が引き受けます。
ただし、ここに未経験の人が誤解しやすい点があります。クラウドで要らなくなるのは「機械を買って置いて保守する」部分だけです。借りた仮想サーバーの中身は普通の Linux や Windows で、OS の更新・ソフトの設定・権限の管理・ネットワークの設計は借りた側の仕事のままです。だから、クラウドを学ぶ前にネットワークと Linux の土台が要ります。次に読むネットワークとは何かは、そのための1本です。
WHAT STAYS消える仕事と残る仕事
クラウドで消えるのは機械の保守だけ
自分の仕事のまま:
- OS とミドルウェアの更新
- 権限の設計(IAM)
- ネットワークの設計
- 監視と障害対応
- 請求の監視
だから、ネットワークと Linux の土台が要る
クラウドに移っても消えない仕事
- OS とミドルウェアの更新、脆弱性への対応
- 誰が何にアクセスできるかの権限設計(AWS では IAM)
- ネットワークの設計(どこを公開し、どこを閉じるか)
- 監視と障害対応(動いているか、遅くないか、いつ壊れたか)
- 使った分だけ払うので、止め忘れがそのまま請求になる。請求の監視も自分の仕事
CHECK 1ここまでの確認
NIST の定義で、クラウドの特徴に入っていないものはどれ?
答えと解説
答え: 3. 事業者が OS の更新まで全部やってくれる
OS の更新は借り方(IaaS か PaaS か)で変わり、クラウドの定義には入っていません。定義にあるのは、オンデマンド・ネットワークアクセス・共有・伸縮性・計測の5つです。
IaaS・PaaS・SaaS は「どこまで借りるか」の区分
クラウドの話に必ず出てくる3つの略語は、「どこまでを事業者に任せ、どこからを自分でやるか」の区分です。SP 800-145 もこの3つをサービスモデルとして定義しています。
| 区分 | 借りるもの | 自分でやること | AWS での例 |
|---|---|---|---|
| IaaS(Infrastructure as a Service) | 仮想サーバー・ストレージ・ネットワーク | OS から上の全部(更新・設定・アプリ) | EC2、EBS、VPC |
| PaaS(Platform as a Service) | アプリを動かす土台まで | アプリのコードとデータ | Elastic Beanstalk、Lambda |
| SaaS(Software as a Service) | 完成したソフトそのもの | 使うだけ(設定と運用のごく一部) | Amazon Chime、Gmail など |
下(IaaS)に行くほど自由で、その分やることが多い。上(SaaS)に行くほど楽で、その分自由が少ない。どれが正解ということはなく、「自分で持ちたい範囲」と「任せたい範囲」で選ぶものです。
HOW FAR TO RENTどこまで借りるか
上に行くほど、自分でやることが減る
オンプレミス
- ネットワーク
- サーバー
- 仮想化
- OS
- ミドルウェア
- データ
- アプリ
IaaS
- ネットワーク
- サーバー
- 仮想化
- OS
- ミドルウェア
- データ
- アプリ
PaaS
- ネットワーク
- サーバー
- 仮想化
- OS
- ミドルウェア
- データ
- アプリ
SaaS
- ネットワーク
- サーバー
- 仮想化
- OS
- ミドルウェア
- データ
- アプリ
自分でやる事業者がやる
未経験の人が最初に触るのは IaaS の EC2 です。理由は簡単で、IaaS は「借りた機械」がそのまま見えるので、オンプレミスの知識との対応が取りやすいから。EC2 を1台立てて中に入ると、それが普通の Linux サーバーだと分かります。この「普通のサーバーをネットワーク越しに借りている」という実感が、あとで PaaS やサーバーレスを理解するときの土台になります。
「クラウド=AWS」ではない
AWS(Amazon Web Services)は、クラウドという借り方を提供する事業者の1つです。ほかに Microsoft の Azure、Google の Google Cloud などがあります。「クラウド」という言葉自体は借り方の名前で、AWS は会社とサービスの名前です。
このサイトが AWS を軸にしているのは、執筆者が AWS 認定を全冠しており、AWS については試験ガイドと公式ドキュメントの範囲で一次情報に当たれるからです。ただし、段0(土台)で扱うネットワーク・Linux・クラウドの言葉は、どの事業者でも同じです。土台ができていれば、あとで Azure や Google Cloud に移っても「EC2 に相当するものはどれか」の対応表を1枚挟むだけで済みます。
CHECK 2ここまでの確認
EC2 を借りたとき、「自分の仕事のまま残る」のはどれ?
答えと解説
答え: 2. OS の更新と権限(IAM)の設計
クラウドで消えるのは「機械を買って置いて保守する」部分だけです。OS から上、権限、ネットワークの設計は借りた側の仕事のまま残ります。
クラウドの何が「難しい」のか
未経験の人がクラウドで詰まるのは、たいてい次の3つのどれかです。
- 言葉が分からない。 IP アドレス、サブネット、ポート、DNS。クラウドの説明はネットワークの言葉で書かれているので、そこが曖昧だと読めません。
- どこまでが自分の責任か分からない。 「クラウドは安全」と聞いていたのに、公開設定を間違えてデータが見えてしまう。責任の境界(AWS では責任共有モデル)を知らないと起きます。
- 料金の感覚がない。 買い切りではなく従量課金なので、止め忘れがそのまま請求になります。
この3つは、それぞれこのあとの記事で扱います。1はネットワークとは何かとping と DNS で分かる「つながる」の仕組み、2と3はAWS とは何かです。順番に読めば、EC2 を1台立てるところまで前提が揃います。
CHECK 3ここまでの確認
「Gmail のように、完成したソフトそのものを使うだけ」の借り方はどれ?
答えと解説
答え: 3. SaaS
SaaS は完成したソフトを使うだけの形です。IaaS は仮想サーバーまで(EC2)、PaaS はアプリを動かす土台まで(Lambda など)を借ります。
まとめ
クラウドとは、コンピュータの資源を自分で買わずに必要な分だけ借りる形のことです。オンプレミスとの違いは「買う」か「借りる」か。IaaS・PaaS・SaaS は「どこまで借りるか」の区分で、下ほど自由で仕事が多く、上ほど楽で自由が少ない。クラウドに移っても設計と運用は残るので、ネットワークと Linux の土台が要ります。AWS はクラウド事業者の1つで、土台はどの事業者でも共有できます。
参照ソース
- NIST SP 800-145 “The NIST Definition of Cloud Computing” — クラウドの定義(5つの特徴・3つのサービスモデル・4つの配置モデル)の根拠。2011年9月公表の文書で、いまも定義として引かれる
- クラウドコンピューティングとは(AWS) — AWS 自身によるクラウドの説明と、IaaS・PaaS・SaaS の位置づけ。2026年9月時点の記載
- AWS の概要(AWS ホワイトペーパー) — AWS のサービス分類(コンピュート・ストレージ・ネットワークなど)の根拠


